読書手帖「新世界より」

ジャンルとしては、SFともファンタジーともホラーとも言えるような微妙な位置づけの作品なのですが、プロットになる物語世界の背景の構成力はなかなか感心しました。
この作品では結構、グロテスクな人間描写がなされています。バケネズミも含めて人間の暗い面を暗に示しています。そういう意味ではやはりホラーなのかもしれません。

文章表現は、基本的な一人称視点を踏襲しており、ある意味、王道な書き方です。
しかし、一人称の語り手が過去を振り返る手記とすることで、一人称視点なのに全体を見通せるという裏技を使っています。

こうすることで伏線も張りやすくなるのですが、難点として、語り手が過去を語っていることから先をある程度見通せるという点でストーリの先が読みやすくなるという問題があります。
「悪鬼」の存在条件の説明と、語り手が生き残れたことが分かっていることから、「悪鬼」の正体はストーリの中で説明される前に読み取ることができました。

それでも、数日で読み通せたので、決して幻滅するほどつまらない作品ではありません。
こういう話が好きな人には結構楽しめる作品だと思います。

 

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